『男を消せ!』三井マリ子 毎日新聞社

人間は、誰でも生まれてから死ぬまでの間に、他人の手を借りずには一時もたちゆかない時期がある。その間、公共サービスが十分でないとなれば、私的サービスに頼らなければならない。この私的サービスの担い手は、どこの国でも女だ。だから、家で「女手」を必要とされる女たちは、外でのキャリアを捨てたり、一日の勤務時間を短くしたりする。「揺りかごから墓場まで」は、福祉国家を目指したイギリスのスローガンだった。文字通りこの「揺りかごから墓場まで」の福祉が整っていなければ、女がのびのび活躍することはできない。

だらか、女の社会進出がめざましいノルウェーにおいては、「女手」を社会サービスが肩代わりしていることは明らかだ。

それと、もうひとつ。福祉が充実していたら、即、女の政治家が増えるかというと、ことはそう簡単ではない。女たちが、これだけ大勢政治に進出している背景には、さらに何か仕掛けがあるはずだ。

目の前の新聞に書かれている「40%を女にする方針」が、その仕掛けのひとつらしいと気がついた。私は、重くて堅い扉をこじ開ける魔法の鍵を見つけたような気がした。

 

「僕は、育児論について哲学的境地に達しているんです。人生には、競争して他人より先んずるといった価値観とは異なるもうひとつの価値観があることを、男こそ身をもって知るべきだと思うのですよ。子どもは大人とは別の時間で生きているんです。子どもの時間に合わせて生きることによって、思いやりとか情緒を大事にすることが身についていきます。僕たち北欧人は、こうした他者への尊重とか連帯に重きを置く価値観をソフト・バリュー(柔らかな価値)って呼んでいるんですかね」

「おむつを替え、台所に立ったところで男のアイデンティティはなくならないということもね。多くの男は完全に男女平等になったら女が女でなくなり、男が男でなくなると思っている。これは妄想ですよ」

「20世紀の家族革命は、19世紀の産業革命に匹敵するものです。21世紀には、男の領分が女に侵される恐怖感とか、罪の意識に悩む女とか、育休をとった僕がスポットライトを浴びるとか……こういったことをあなたと話したことも笑い話になる日がくるはずですよ。きっとね!」

 

カミラ・コレット『知事の娘』

ヘンリック・イプセン『人形の家』

 

「北欧の選挙制度である比例代表制クォータ制を内在していると言えるのです。なぜなら、比例制度とは、物事の決定にはすべての利益集団から均等に代表が選ばれ審議に関わるべきだという考え方がもとになっています。これはヴァイキング時代からの北欧社会の絶対原則なのです」

 

政党が名簿を決める比例代表制選挙では、選挙民が直接個々の政治家の当否に判断を下す機会は少ない。そこで、日本以外の各国では、選挙民が気に入らない候補を消したり、好きな候補を当選可能な上位にあげたりすることができるよう工夫をしているのだ。

 

ノルウェーもほんの30年前までは、北欧の中でも性役割の色濃く残った国だった。政治家を志し当選した女たちが、マッチョな議会の雰囲気や嫌がらせに会い、まくらに顔を押し当てて泣く夜が続いたこともそう昔の話ではない。

しかし、ノルウェーの女たちはあきらめなかった。政治への男女平等の参加をめざして考えられるあらゆる努力を続けた。選挙制度を巧みに利用した投票行動。首相まで巻き込んだ女の候補者を落とすなという選挙キャンペーン。政党の綱領にクォータ制を挿入させる党内運動。時には、違法すれすれの離れ業もやってのけた。

そして、今、ノルウェーの政治を任されてきた女たちは、その指導力を世界の政治舞台で発揮しようとしている。……

対するノルウェーの男たちが、この国を嫌って国外に亡命したなどという話は一度も聞いていない。それどころか最近、ノルウェーの男が、北欧諸国の中で病院にかかる率が最も少なく、しかも健康だと発表されている。

このように、ノルウェーを見ると女に政治を任せても大丈夫だと確信できる。大丈夫どころか、出生率はぐんぐん上がり、お年寄りは住み慣れた土地で安心して老後を過ごすことができ、過労死とは無縁の健康な男たちの多い社会になっているではないか。

このささやかな調査が、日本の政治を変えるきっかけになるならば、零下25度で鼻水を垂らした甲斐もあるというものだ。

 

この本が出版されたのが、1999年2月10日。

23年くらいたつのに、日本は亀の歩みごとく遅すぎる……。

ノルウェーも男性の領分を侵されることに嫌悪感や恐怖感を感じたのだろうということはこの本からも推測できたが、なんていうのか、合理的に考えようという努力をすることはできたのだろう、ノルウェーの男たちは。法を尊重すべき、人権を尊重すべき、などと、教育?がしっかりしていたから、日本から見れば迅速に変化させることができたのではないかな。

日本の政治の場に、女性を増やそう!という意識を、当事者の女性たちがもっと持たなければならない。これは超党的な活動のはず。3年後の選挙までに、もっと政治の勉強をしなければ。

日本の選挙制度はどうなのか?

家父長制についても、もっと学ぼうっと。